君の星、僕の星
「……」


バックミラーで確認すると、アヤはまだ降ろした場所に立ち尽くしていた。
その視線から逃れるようにアクセルを踏み込み、本来曲がる場所のひとつ手前の交差点で右折する。


空になったスーツの胸ポケットには、封筒の重みが感覚として残っている。



「堕ろせって事?」



うっすら涙が浮かんだアヤの瞳を思いだす。

俺は今、彼女の体も心も傷つける事を要求している。
自分でも信じ難い現実を前に、良心が痛まない訳はない。




……こうするしかない。

こうするしかないんだ。




必死で自分に言い聞かせながら家路についた。
< 93 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop