君の星、僕の星
「……そうか」


細い背中に向かって一言だけ返事をし、スーツのまま家を出た。



マンションの専用駐車場に停めた車の中で、煙草に火を付ける。

不妊治療を開始してから家の中で煙草は吸わないようにしていた。
そうしろと言われた訳ではないが、自分なりに妻の体を気遣っての事だ。



同い年の淳子とは結婚して7年になる。



夫婦として自然な流れで子供を望んだが、未だに恵まれないままだ。


2年前に受診した不妊治療専門のクリニックで妊娠しにくい体質であると診断されてからというもの、妻はますます躍起になって治療に取り組んでいる。

昨年から体外受精を試みているが、今回も着床していなかったらしい。



いくら医学が進歩しているとはいっても、そろそろ子供を持たない人生も視野に入れるべき年齢なんじゃないか。


俺自身はそう考えているが、妻にはまだ言い出せずにいた。
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