アイビー。
「…俺…かお…に」

ぽつぽつと呟きながら迫る男が
もう目の前まで来てる

「ぃ…いや…」

「…俺には…香織しか…いなかったのに」

ハッキリ。
聞き取れたその言葉。

「…香織…?」
香織って…

確か、前に縁を切った。
綺麗な、女の人…?

「御堂香織さん…?」
その瞬間、男の人の動きが止まる。

「…香織は俺の全てだった…」
「…」
「香織が望むものは全て与えた!!俺の全てをかけて、香織を愛した!それなのに…、それなのに、アイツは…」

叫びだした後。
急にピタリと黙り込み、笑い始める。

「はははは!ははははは!」
「!?」
「全部、なくなった。…金も、友達も…もう、こうするしか…」

黒いジャンパーから何かが光る。
ナイフ…?

「いや…やめて…」
「俺は本気で愛してたのに…。あれだけ愛をやったのに…。ある日突然、プツンと縁が切れたかのように…」

月の光が反射して、ナイフから男の目が見える。
「それもこれも、全部全部お前のせいだ!!」

向けられた視線には。
物凄い憎しみが込められていて。

その瞳は何も映していない。
真っ黒で、ただ、怨みだけを全身全霊で私に向けているのが分かる。


「…ごめ…なさ…」

「君を殺したら僕もあっちに行くよ。大丈夫、怖いことなんてないさ」
ニコニコと。
口角だけを上げて近づいてきた男が。

ナイフを振り上げた。
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