不埒な男が仕掛ける甘い罠
「どこ行くの?」
「奴は部屋にいるんだろう⁈」
コクンと頷くと降りろと顎と目配せて指図する傲慢な男に、ムッとくる。
だけど…惚れた弱みなのかムッとしながらも素直に降りてしまう。
拓真の部屋も知らないくせに、私の手を取り先へと歩いて行く。
そして、2人きりのエレベーターの中
「何階?」
「…三階」
ボタンを押し上昇するエレベーターの中で沈黙したまま手を繋ぎ直し、ぎゅっと握る手のひらに1人じゃないのだと勇気をくれる。
車中、ずっと、拓真に残酷な事を言わなければいけない辛さから胸が苦しかったけど…私に固執する拓真の呪縛を解放してあげれるのは私しかいない。
私は、新ちゃんの手をぎゅっと握り返した。
「俺も共犯者だ…殴られるのは俺の役目だろ」
ふざけた口調だが、表情は真剣だった。
「そんな役目頼んでない」
「なら、勝手にする」
そう言って、開いたドアの外に出て行き勝手に先に進もうとする。
部屋の場所も知らないくせに…
「こっち」
新ちゃんの手を引っ張り拓真の部屋の前に立つと、深呼吸する暇も与えてくれずにベルを鳴らす新ちゃんに言葉も出てこなかった。
「…はい」
「わたし…」
久しぶりの拓真の声に緊張しだした。