不埒な男が仕掛ける甘い罠
いつの間にか立ち上がっていた新ちゃんに肩を抱かれて歩くように促される。
一歩、一歩、歩きながらも、拓真の悲し気な表情が目に焼き付いて離れなくて何度も後ろを振り返っていた。
これでよかったのだろうか?
他に方法があったのでは?と…
「どんな別れをしたって、俺を選んだ時点であいつを傷つけるのは変わらないんだ。俺を殴って少しは気が済んだだろう…だから、唯はもう何も考えずに俺に愛されていればいい」
ぎゅっと肩を抱き、頭部に唇を押しつける新ちゃんの背を力いっぱい抱きしめた私。
そんな私を新ちゃんは黙って抱きしめ返してくれた。
家まで送ってくれる車中、会話はないまま、ただ、指を絡め手を繋ぐ私たち…
家の前に車が止まっても繋いだ手は離し難く、だからと言って会話をする訳でもなく見つめ合う2人。
私を見つめる新ちゃんが私を囲うようにシートの背に手を置き、目の前で微笑んでいる切れた唇が痛々しくて…
「痛かったよね」
無意識にその唇に触ると
「唯からキスしてくれたら治るかも…」
「…む、無理だよ」
「俺にキスされたくないって言ったじゃん。だから、唯からしてよ」
意地悪く笑う男は、以前、拒んだ事を根に持っているようだ。