不埒な男が仕掛ける甘い罠
離れた新ちゃんは、はにかんだ笑顔で私の頭をポンポンと叩いた。
「続きは、仕事が終わった後のお楽しみにとっておくよ。唯も頑張ってたら…ご褒美あげるからね」
新ちゃんの意味深な笑みに、後ずさりして
「お仕事だから頑張るのは当たり前です。ご褒美なんていりません」
丁寧にお断りする。
「うーん、それは仕事終わりにまた聞くよ」
聞こえないふりをして戻り、私は朝のオープン前の時間のロスを壁にかけてある時計で確認すると、少し早めに来たのに、いつもの出勤時間と変わらない時間になっていた。
もう…と新ちゃんに怒りながらも、右手にある指輪が嬉しくて口元がにやけてしまう。
「唯ちゃん、それ新ちゃんから?」
それを見過ごさなかった美鈴さん。
「…はい」
「見せて…」
今更隠すのも変だと思い、思い切って美鈴さんに見せた。
「昨日の夜、突然あの子が知り合いのお店を紹介してくれって言うから紹介してあげたんだけど、まさか今日の朝、開いてもいない時間を無理に開けてもらって指輪を買って来るなんてね…それもペアリングでしょう‼︎我が息子ながら、独占欲が強くて笑ってしまったわよ」
先ほど美鈴さんが笑っていた理由がわかり、苦笑いするしかなかった。