不埒な男が仕掛ける甘い罠
「…はーい」
休む気なんてなかったけど…ママの言うことは正しい。
娘に仕事を休めというパパが変なのだ。
返事をした私の頭部を慧が叩いて、アイスノンを手渡してボソッとつぶやいていく。
『しっかりしろよ』
慧なりの励ましに、わかってるわよと舌を出し反撃する。
ニヤッと笑った慧は、朝の仕込みをする為に裏口からお店に向かって出て行った。
もう、そんな時間なのかと私も瞼を冷やすことに専念していると、何か言いたげのパパがウロウロしていてうざい。
ママになんとかしてと目配せすると、ママに急かされたパパは渋々顔でお店に出て行った。
「ママ、ありがとう」
「パパは、唯が心配なのよ。そこはわかってあげてね」
「うん」
「拓真君との交際は反対しないけど、唯は一直線すぎるから心配なの。拓真君以外の他の男の子にも目を向けてみたらどう?いろいろ見えてくると思うわよ」
ママの言いたい事はわかるけど…拓真しかいないんだもん。
他の男の人なんて、考えられない。
「そういえば、新ちゃん帰って来るらしいわよ」
「えっ、そうなの」
「拓真君以外の男の子身近に出現ね」
うふふと楽しそうに笑うママの思惑がどこにあるかなんて、この時はわからなかった。