不埒な男が仕掛ける甘い罠
だから俺は、彼女の警戒を解く為に仕事の話などして意識を別の方向へ向けた。
だが唯の家の前まで来ると、このまま別れるのが名残り惜しくてつい彼女の手をとり指先にキスをして見つめた。
頬を染め何度か瞬きをした後、悔しそうに下唇を噛む唯の姿に、してやったり感で頬が緩んでしまう。
1人の男だと印象づけるには効果的だったらしい。
伸ばした手…
彼女の頭部を引き寄せキスしたい衝動をグッと我慢して、『おやすみ…また明日な』と言いながら頬を撫で彼女が家の中に入るまで見送った。
その日から、オープン前でどんなに忙しく準備に追われていても、必ず唯を家まで送り届け、最後には指先にキスをする事を忘れない。
毎回、困惑しながらも拒まない唯に、早く、俺のモノになってしまえと願いながら指先にキスをする。
オープン前日の今日
唯の様子がおかしい。
そわそわしているのだ。
初めは、オープンを明日に控えて緊張してそわそわしているのかと思って見ていたが、どうも違うらしい。
時計ばかり気にしている…
お袋が突然の思いつきでデザートメニューを増やしたらどうかと言い出した。
お袋の提案は決定事項も同然で、一度、言い出したら俺の言う事なんて聞きやしない。