不埒な男が仕掛ける甘い罠
あんな男が唯の彼氏なのか?
思わず、火をつけたばかりのタバコを握り潰し熱さに顔をゆがめた。
そんな俺を揶揄うように笑う慧。
「あんなのが唯を幸せにできるのかな?」
慧の独り言は、俺の心の声を代弁していた。
「…まだ、唯の彼氏とは決まっていないだろう?他人の空似かもしれない」
「99%の確率で本人だと思うけど」
「本人だとしても唯の選んだ男だ。見た目と違って真面目な男なんだろう」
「…そうかな⁈新がそう思いたいならそう思っていれば…後で後悔しても遅いからね」
慧の言葉が胸に突き刺さった。
後悔⁈
後悔なら、もうとっくにしているよ。
心の声でひとりごちる俺。
慧は不機嫌になり帰ってしまった後で、4人組が帰ろうと会計をしていた。
いつもなら見送りは、まさふみかゆうやに任せるのにこの時の俺は体が勝手に動いていた。
外までの見送りは、少しでも常連客を掴む為の手段の1つ。
「お気をつけてお帰りください」
酔っ払い相手にあまり意味のないセリフでも、気を良くして帰ってくれる。
そして、また来店してくれれば次に繋がるのだ。
唯の彼氏に似た男を間近で見て、同じ男として好きになれないタイプだった。