不埒な男が仕掛ける甘い罠
爽やかな笑顔で、お客の心を掴んだ新ちゃん。
オープンを楽しみにしてます…と頬を染めた若い女性達は去って行った。
「さすが、私の息子だわ」
嬉しそうに私に笑みを浮かべる美鈴さん。
そして、ぺろっと舌を出し
「親バカかしら?」
可愛らしく笑うので
「オープンが楽しみですね」
なぜだか、モヤッとする感情を隠し、外に見える新ちゃんを見つめ答えた。
その日は、日曜ということもあり夕方にはショーケースの中のケーキが残りわずかなり、いつもより早く店を閉める事になった。
「お疲れさま」
裏口から現れた新ちゃんが微笑んでいた。
「新もお疲れさま」
美鈴さんは、首をコキコキ鳴らし首を回し疲れた表情をしている。
ずっと、下を向いての作業だから首が疲れるのだろう…
「唯ちゃん、戸締りお願いしていいかしら?」
「はい」
「それじゃ、お願いね…あっ、そうだわ。明日は休みだから、よかったらショーケースの中のケーキ持って帰っていいわよ」
「ありがとうございます」
美鈴さんは、着替えを済ませる為にカーテンレールを引く。
新ちゃんは、ただそこにいるだけで話しかけてくる訳でもない。