不埒な男が仕掛ける甘い罠
居た堪れない雰囲気に私は、残ったケーキを箱に詰める事にした。
背中に感じる視線。
なに?
何か言ってよ。
辛い沈黙は、カーテンレールの引く音で救われる。
「あら、まだいたの?」
「いちゃ悪いか?」
「いいけど、向こうの準備はいいの?」
「あぁ…コーヒーの試飲してほしいんだけど」
「必要?」
「お袋のケーキとの相性確認したいんだ。それしだいで焙煎の仕方とかいろいろ変わってくるだよ」
何かをごまかすように、人差し指で鼻先を擦る。
それを見た美鈴さんは、ニタっと笑った。
「唯ちゃん‥」
「はい」
返事をしたけど、なんだか嫌な予感がする。
「ちょうどケーキを持ってる事だし、新につきあってあげてくれる?」
「…私1人でですか?」
「お願い…私、今からあっちのケーキ作りに行かないといけないのよ」
「大変ですね」
「そうなのよね‥…じゃあ、後お願い」
苦笑いをして、いそいそと出て行った。
お願いされたけど…どうしよう…
戸惑っていたら
「唯、着替えたら隣に来てくれ」
「うん」
裏口から出て行った新ちゃんの背を見送り、私は急いで着替えて戸締りをした。