不埒な男が仕掛ける甘い罠

隣の裏口のドアを開ける。

「お邪魔しまーす」

中から、コーヒーのいい香りがする。

「そこに座って」

初めて入る店内は、思っていたより狭く入り口から見て縦長。カウンター席が8席、その背後に4人用のテーブル席が2つ、2人用のテーブル席が3つ…

新ちゃんに促されたカウンターの席にためらいながら座った。

カウンターに置いたケーキ箱を新ちゃんは手にとり、箱を開けている。

「こんな時間にケーキなんて食べたら、飯食べれないよな?」

「たぶんね」

「だよな…」

クスッと笑って、ケーキを1つ取り出しお皿に乗せて出してくれた。

それは、いちごのショートケーキ。

「唯、これが1番好きだよな」

「うん」

覚えていてくれた事に嬉しくて、大きく頷いて微笑んでいた。

スッと差し出されたコーヒーカップ

「いただきます」

鼻からぬけるコーヒーの香りと舌先に残るコーヒーの酸味を感じてから、ショートケーキを食べた。

相性なんてわからないけど…

「美味しいよ。美鈴さんのケーキも新ちゃんのコーヒーも、どちらも……」

スッと伸びてきた新ちゃんの指が、私の唇の端をなぞったその指先には生クリームがついていて、躊躇いもなく新ちゃんはその指先ごと生クリームを口に含んだ。
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