不埒な男が仕掛ける甘い罠
どうして?
こんなにドクドクと大きな音が鳴るのかわからない。
とにかく、早く帰らなくっちゃと思う気持ちが強くて、コーヒーもケーキも味わう余裕もないまま無口になっていた。
食べ終えた頃、隣のスツールに腰掛けた新ちゃんにドキリとしてピクリと指先が揺れた。
隣でクルッとスツールを回しカウンターを背にして店内を見ている彼と同じように私もスツールを回し、店内を見渡した。
「この店、どう思う?」
「…うーん、板張りの床にクリーム色の壁が落ち着くし、茶系に統一したテーブルとソファにしたのは素敵だけど席数が少ないよね…でも、ゆったりとくつろげる感じがいいかも。今はあちこちにコーヒーショップのチェーン店があるけど、常連さんがつけば隠れ家的になっていいかも…私がお客なら1人でゆっくりしたい時とか通うよ」
隣から感じる視線に緊張しながら、私の意見を言うと
「そうなんだよ。コーヒーショップのチェーン店ってガヤガヤしてうるさいだろう。1人でゆっくりとコーヒーを飲みながら静かに過ごしたいって俺は思うんだ。親父の店は、なんだかんだ売り上げ重視で席数あるだろう。俺的には、昔ながらのこじんまりとした喫茶店風で、カウンターにマスターがコーヒーをドリップしてるイメージの店を作りたかったんだ」