不埒な男が仕掛ける甘い罠
「うん、言わないよ。約束…?」
昔のように無意識に新ちゃんの前に小指を出した。
「どうしたの?」
「…いや、昔もよく、そうやって唯や慧と指切りしたなって…」
「しないの?」
指切りをしようとしない新ちゃんに焦ったくて催促してみる。
「俺は……しないよ。子供じゃないんだから…唯が約束を守るって知ってるし…」
そう言って、グラスの中のビールを一気に飲み干した新ちゃんは、いつ間にかおつまみを用意して出てきたまさふみさんに空のグラスを振り催促していた。
手に持っていたナッツ類のボール皿とステック春巻きが入ったグラスを置いていく。
そして、おかわりのビールが新ちゃんの目の前に…
この出した手をどう引っ込めていいかわからなくて…
「指切りしないならそれでいいんだけど、約束破っても怒らないでね」
まだ私は子供だと言われたような気がして、ムッとした声で言い返す。
そんな私に苦笑した新ちゃんは、私の頭を鷲掴むと宥めるように揺らしてきた。
「子供扱いしたわけじゃない。拗ねんなよ」
「この手が子供扱いしてないって言うの?」
宥める時の新ちゃんの癖は、昔と変わらない。
懐かしさに頬が緩み、もっとこのやりとりを楽しみたいと思ってしまう。