不埒な男が仕掛ける甘い罠
だけど、私の手がそれを拒絶すると驚いた表情をしてその手を引っ込め、ズボンのポケットに手を突っ込んで歩き出した。
昨日までの私なら、あの手を取り横に並んで歩いていただろう…
そんなことを思いながら私は、その後ろを歩いて行く。
公園にある自販機から私の好きなミルクティーを買い、ベンチに座る私の手の中に置いた。
「カイロがわりに持ってて」
いつもと変わらない優しさに胸が熱くなる。
そして、1人ぶんの距離を置いて横に座った拓真。
今、彼がどんな表情をしているのか見れないまま、私は温かい缶を握りしめた。
「…唯に言われた通り、絵里さんにピアスを返そうと思って会ったんだ」
「別にわざわざ今日じゃなくても明日会社で返せばいいのに…」
絵里さんの言葉か脳裏によぎり、つい、嫌味たらしく言ってしまった。
「会社だと人の目があるから…それに、絵里さんとはちゃんと話しておこうと思って…」
「何をちゃんと話をする必要があるの?意味わかんないよ」
拓真が、私の肩を掴む。
「俺が1番大事なのは唯だけだから、信じてほしい」
信じたいのに…
拓真の言葉にどんどん信じられなくなっていく。