不埒な男が仕掛ける甘い罠

お互いに声を荒げるような言い合いになっていた。

「唯にそんな見っともない姿見せたくないんだ」

「絵里さんならいいの?」

「ミスして落ち込んでる時、上司に怒鳴られて凹んでいる時、表情に出さなくても彼女は俺の気持ちをわかってくれて側で励ましてくれる。彼女の前なら泣けるんだ。そんな俺を抱きしめてくれる」

そう言った拓真は、しまったと顔をしかめた。

ケンカ越しの勢いで本音が出たらしい。

「…拓真、今、自分が何を言ったかわかってる?」

「……」

「抱きしめてくれるってなに?母親みたいに抱きしめくれるってわけじゃないよね」

「……あぁ、絵里さんとは何度かそういう関係になったよ。だけど、それはお互い合意の上で慰めあっただけなんだ。浮気じゃない」

開き直った言い方にカチンとくる。

「俺が好きなのは唯だから、唯にはかっこいい俺だけを見ていてほしい。見っともない姿なんて見せたくなかったんだ」

「そんなの…理由にならない。浮気は浮気よ」

「どうしてそんなに攻めるんだよ。彼女に気持ちなんてないんだ。俺が大事なのは唯だって言ってるのにどうしてわからないんだ」

両肩をキュッと掴む拓真の手の力に顔が歪んでいく。

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