不埒な男が仕掛ける甘い罠

そう思いながらも、抱きしめる腕を振り払えないでいた。

「私、拓真が好きよ。だけど…許せないの。一緒にいると苦しいの…しばらく距離を置きたい」

「距離を置くってどれだけ?一カ月?二カ月?」

「わからない」

「電話やメールはしていいよな?」

どうしてわかってくれないんだろうか。

「1人で考えたいの」

歯痒さに叫んでいた。

「1人にしたら別れるって言い出すに決まってる。それに、俺の代わりに幼馴染のあいつが唯の側にいるんだろう?そんなの嫌だ」

自分のオモチャを取り上げられた子供のように見える。

「お願いだから考えさせてよ」

「考える必要なんてないよ。俺と住めばいいじゃないか⁈」

名案だとばかりに微笑む拓真。

何を言ってるんだろうか?

一緒に住めば、嫌でも拓真が見せたくないと言った姿を私に見せる事になるのに…

「拓真はそれでもいいの?私に全てをさらけ出すんだよ」

「俺の情けない姿を見ても絶対別れないって言ってくれるなら、見栄をはるのをやめる」

もっと早くそう言って欲しかったと思ってしまった。

その後、拓真は家まで送ると言ったが私は首を縦に振らなかった。
< 49 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop