不埒な男が仕掛ける甘い罠
「あいつのとこ行くんだろ⁈行かせない」
険しい表情をし、掴んだ腕を強引に引っ張り歩き出そうとする拓真に、私の足は動かない。
その場で踏ん張るように立ち止まり首を左右に振って必死に抵抗していた。
「…お願い、離して」
「いやだ」
「彼氏の俺が送って行くって言ってるのに、なんで嫌がるんだよ」
「どうしてわからないの?拓真は私を裏切ってたんだよ。そんな人と一緒にいたいって思うと思うの?」
何か言いたげな表情を浮かべた後、歯をくいしばった拓真は手を離してくれた。
「わかった。でも、絶対別れないからな」
今の私は、その言葉に何も返せなくて口を閉ざした。
「さっきの店の前までなら送らせてくれるよな?」
悲しげな目をしてどこか探るように、私の答えを待っている。
そんな目をされたら、イヤとは言えない。
裏切られても、拓真を嫌いになれないからだろうか?
「……うん」
頷く私を見て、安心したように頬を緩ませ目尻を下げて笑った拓真を見て、この笑顔が大好きだったんだよなって思っていた。
自分の心の変化にえっと驚くけど、傷ついたばかりだからそう思ってしまったんだと自分を納得させた。