不埒な男が仕掛ける甘い罠

お店の前まで、拓真とは一定の距離を保って無言のまま歩いてきた。

「……」

「……唯を悲しませてごめんな。でも、もうしないって約束する」

私と指切りをしようと思ったのか小指を出して宣言する拓真と指切りをしようとは思えなかった。

拓真の小指が行き場をなくしてたたずんでいる。

ふと、新ちゃんと約束と言って小指を出した自分を思い出した私は、指切りをしてもらえなかった自分に見えてクスッと笑ってしまった。

拓真は、笑った私を見て怒っていないと思ったのか、私の手を取り強引に指切りをした。

「約束…これから毎日電話かメールはするって約束するから、許してくれるよな?」

拓真は、私の言葉を全然理解していないと腹が立ってくる。

「そんな約束いらないから」

と、冷たい声で指を切ったのに、彼は私が拗ねてると勘違いしてしまった。

「今まで、仕事を理由に連絡しなかったのは悪かったよ。だけど、これからはちゃんとするから」

と、私の頭を撫でて微笑んでいる。

違うのに…
私のほしい言葉はそんな言葉じゃない。

「家に着いたか心配だから着いたら連絡しろよ」

急にみせる束縛に、イラッとくるのはどうしてだろう?
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