不埒な男が仕掛ける甘い罠

あやふやな笑みを浮かべた私は、じゃあと背を向けお店のドアノブに手を伸ばした。

「連絡待ってる」

背後からそう言った拓真。

「連絡するのも待つのも私ばかりで、勝手すぎるよ」

振り向いて呟いた時には、拓真の背中は遥か向こうだった。

聞こえない背中を見つめ、私は下唇を無意識に噛み涙を流していた。

その時、背後のドアが突然開き、背に当たった。

衝撃に声をあげ、前のめりになる。

「おっと、ごめん。大丈夫か?」

その体を背後から腰を抱きしめ、転ばないように支えてくれた人の声を聞き、別の涙が流れてきた。

この涙はなんの涙なのか?

わからないまま、頬を伝う涙を指の腹で拭った。

「…‥新ちゃん」

「ごめん、痛かったよな?」

「ううん…大丈夫だよ」

「…泣いてるのに?」

振り返った私の頬を新ちゃんの指が撫でていた。

「これは…」

違うと言えば、泣いてる理由を言わないといけない気がして、言いかけた言葉を飲み込んだ。

「痛くないならいいんだ。…帰るか?」

私の頭を撫で微笑む新ちゃん。

拓真にも同じように撫でられた頭なのに、この手にもっと撫でられたいと思ってしまうのはどうしてなのだろう?
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