不埒な男が仕掛ける甘い罠
表通りでタクシーを拾い、私だけが乗るものだと思っていたのに、隣に座り行き先を告げる新ちゃん。
「いいのに…」
「こんな唯を1人で帰せないよ。約束通り送って行く」
どこか機嫌の悪い新ちゃんは、タクシーのドアに肘を着いて外を眺めている。
どうして機嫌が悪いのかわからなくて、私も反対の景色を眺めていた。
しばらくすると、見慣れた景色を街灯が照らしている。
タクシーが家の前に止まり、私が財布を出そうと鞄をあさっているうちに新ちゃんがさっさと支払いを済まてしまった。
そして、私と一緒に降りている。
「えっと、今日はありがとう。タクシー代…」
「いらない」
「奢ってもらってばかりで申し訳ないよ」
「誘ったのは俺だから、気にするな。素直に奢られてろ」
優しい新ちゃんらしからぬ口調に、何度か瞬きして目の前の人物を再確認する。
新ちゃん…だよね?
「…タクシー行っちゃたけど、どうするの?慧の部屋に泊めてもらう?」
慧は、昔、パパが部屋にしていたお店の二階に住んでいる。
「そのつもりで、慧には連絡してある」
「そうなんだ…じゃあ、おやすみ」
今できる最高の笑顔を浮かべたのに
「そんな辛そうに笑うなよ」