不埒な男が仕掛ける甘い罠
新ちゃんの声が聞こえたと思った時には、私は彼の腕の中にいた。
優しく背と腰を抱きしめる新ちゃんの腕は、私をいたわるように包んでくれる。
その心地よい温もりに私の心は崩壊していく。
我慢していたのに…
嗚咽をもらし、泣きじゃくる。
うっ、う、うう…ひっく…うう…うっ…
私の頭を撫でながら、なだめるように何度も前頭部に唇が触れているのに、今の私はその意味を考える余裕もなく無心に泣いていた。
「どうして…どうして浮気なんてしたの?」
拓真に聞けなかった言葉を泣きながらつぶやく。
「………あんな奴の為に泣くな」
そう言って、抱きしめる腕にぎゅっと力が入った。
それでも、一度豪快に泣き出した涙腺は止まらない。
後頭部から新ちゃんの腕に押しつぶされた顔は、彼の胸に埋まり、私が泣き止むまで胸を貸してくれていた。
涙でぐっしょりと濡れてしまったチェスターコートの冷たさに気づいた私はハッと我に返り、街灯の明かりを頼りに涙で剥げ落ちたファンデが着いていないか確認しようと潤んでいる涙を拭い、彼のコートを掴んで少しでも近くで見ようと目の前まで持っていく。
「ごめんなさい…コート汚したよね」