不埒な男が仕掛ける甘い罠
それなのに
「さっきまでここにキスして欲しそうな顔をしてたけど、素直じゃない唯にはおでこで十分だろ」
私の唇を指先で弄び、意地悪く笑っていた。
「そんなわけない。キスしてほしいなんて思ってないから…」
「……ヘェ〜、まぁ、いいけど」
気に触ることを言ってしまったようで、新ちゃんの笑みが恐ろしく見える。
笑っているのに笑っていない目に…
あっ、まさふみさんが言ってた笑顔だと冷静に見ていないで、自分の危機感の無さにこの時気づくべきだった。
「じゃあ、おやすみ…」
お店の横にある自宅めがけて私の背を押した新ちゃん。
私は振り向き
「…おやすみ」
と返した時には、新ちゃんはお店の横にある外階段を上っていた。
あっさりとした新ちゃんの態度に、もやっとして腹が立つのはどうしてなんだろう?
そんなわけないと首を振り、手にAliceのケーキの箱を持って私は家の中に入って行く。
ケーキを冷蔵庫に入れて二階に上がり、自分の部屋の窓からお店の二階部分を見つめていたら、鞄の中でスマホが振動する。
拓真は痺れを切らしてかけてきたようだが、今日は、いろいろな事があり過ぎて何も考えたくない。
電源を切ってそのままベッドで横になり目を閉じた。