不埒な男が仕掛ける甘い罠

口を閉ざしてしまった。

「どうも…俺のことじゃないみたいだな」

どうしよう…
拓真とのことをだなんて言えない雰囲気に、新ちゃんの鋭い視線から目をそらし、言い訳を探す。

どうして言い訳する必要があるの?

ふと、そんな事が脳裏をよぎった時、手の拘束が解けて新ちゃんに抱きしめられていた。

「どうしたら俺だけのことを考えてくれる?」

甘やかな言葉が切ない声で耳元をくすぐる。

キュンとして、体の芯が溶けてしまったかのように力が抜けて、新ちゃんの胸にすがりつく。

「ゆい、答えて?」

私の体を支えながら、耳元で新ちゃんが囁く。

「…わたし‥には、…たく、まが…」

「俺以外の男の名前なんて聞きたくないね」

怒りを含んだ声の持ち主は、私を見下ろし険しい表情をする。

その中に、切なく私を見つめる瞳に心を鷲掴みされたようにズキッと痛む…

その瞳に誘われ間違った事を言ってしまいそうで、目をそらした。

すると、腹立たし気に耳朶を噛んできて、そこに触れる唇の熱に身震いが起こった。

「痛い……やっ…ダメ…」

どこから出たのかわからない艶めかしい声に驚いて、恥ずかしさに目が潤む。
< 70 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop