不埒な男が仕掛ける甘い罠
すると、スルッと離れた温もりに寂しさを感じ、目の前の男を見つめた。
クスッと意地悪な表情で満足気に笑った新ちゃん。
「行こうか」
そして、何もなかったかのように、玄関に向かって歩いて行く。
もう、なんなのよ。
痛みは消えてもジンジンと熱いままの耳。その耳を手のひらで押さえ、新ちゃんの背中を見つめた。
振り向いた男は、動かない私を見てまた笑う。
今度は、屈託のない笑顔で嬉しそうに…
「…今、唯のここは俺だけしかいなくなったよね」
自分の胸を押さえ、私の心を見透かしたような表情をする新ちゃん。
確かに今は、新ちゃんの行動にドギマギして悩んでいた理由なんて忘れてしまった。
だからと言って、素直にうんとは言えなくて何も言わない。
そんな私を見て、仕方ない奴だというように肩をあげ笑っていた。
その後、新ちゃんにかかってきた業者さんからの電話に私達はお店に向かったが、一変した新ちゃんの態度になぜかガッカリしている自分がいる。
店に行けば、壁は既に貫通していて、縁を煉瓦で積み上げている作業に入っていた。
着くなり、改装業者の方と最終確認をしだした新ちゃん。
私は、暇を持て余して近くのソファに座ってみた。