不埒な男が仕掛ける甘い罠
気づかないふりはやめて…

どうしよう…

新ちゃんといると、ドキドキして胸が苦しい。

シーンとした静かな中で、大きく脈打つ鼓動が聞こえてるんじゃないかと胸を押さえ、静かにしてと心の中で叫んでも静かにならない。

もう、無理…

いたたまれなくなり、スツールから降りて鞄を掴んだ。

「帰る」

「送るよ」

当たり前の顔をして、私よりも先に裏口に歩いて待っている。

「…来ないの?」

一緒にいると苦しいから1人で帰ろうとしてるのに、狭い車の中で2人きりなったら、この心臓が壊れるんじゃないかと心配になる。

「1人で帰したら、仁さんに怒られるの俺なんだけど…」

そう言われたら、諦めるしかなかった。

気づかれないように小さなため息を1つして、新ちゃんの後に続いた。

隣の駐車場に止めた新ちゃんの車のハザードランプが音を立て点滅。

助手席側のドアに手を伸ばした時

「ゆい」

私を呼ぶ聞きなれた声に振り向くと、大きな歩幅で勢いよく近寄ってくる拓真の表情は、どこか険しい。

「……どうしたの?」

「どうしたのだって…それはこっちのセリフだ。待ってるって言ったのに電話もかけてこない。こっちからかけても出ないし、電源がつながらなくなったら心配になるだろう」

「……あっ…ごめん」
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