不埒な男が仕掛ける甘い罠

震える体をぎゅっと抱きしめる腕
そして、何も言わず頭部にキスを落とす男の仕草に涙が流れる。

最初に裏切ったのは拓真だけど、気がつかないで拓真を最初から傷つけていたのは私だ。

拓真を新ちゃんの代わりにして、利用していた…

その事に気がついたのは拓真の口からなんて、私はどれだけ酷い女なのだろう。

別れたくないと言われ、即答できなかったは好きだと思っていた彼氏をこれ以上傷つけたくなかったからなんて、どれだけ私は偽善者なのだろう。

そのくせ別れてもいないのに、ずっと好きだった人に抱かれた私は最低な女

そう思わせないように、新ちゃんが悪者になって私を抱いた。そして、今もお前は悪くないというように何度も頭部にキスをする。

その優しさに胸が熱くなり、涙を余計に誘う。

その後、何も言わず家の前まで送ってくれた新ちゃんが、ポツリと呟いた。

「綺麗な別れ方なんてないからな」

わかってる…

だけど、付き合ってきた間を思い出すとすぐに答えなんて言えない。

初めて手を繋いだ時、ドキドキしてうまく話せなかった。

初めてキスした時、恥ずかしさに2人で真っ赤になった。

初めて拓真と結ばれた時、痛かったけど嬉しさに涙した。
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