小さな村の大きな話


「私はね、この村の人柱として生まれてきたの」


「ひと、ばしら??」


「村の平和のために……私の寿命を供物として神に捧げるの」


「……は??」



……何言ってるんだろう、この時代に人柱って…??



「うん、そりゃそうだよね。このご時世この村から出てこんな事言ったら
この人大丈夫か!?みたいな目で見られるもん」


「ごめん、変な意味じゃなくて…」


「人柱は代々檜山家の女性が受け継いでいるの。実際に寿命が縮む訳じゃないけど
この病気のことがあるから、みんなそう思い込んでるのね……」


「病気??」


「そう。心臓の病気なんだけど、100億人に1人って言われてる珍しい病気で…。しかも、ほとんどは発症しないんだって。
そんな珍しい病気がなぜか檜山家の女性に好発するらしいのよね」


「なんか、難しいね…」


「うん…。それ、で……。
一度発症するとね、完治は見込めないんだって。発症後の5年生存率は30%」


「嘘……。そんな……。
樹ちゃんは??いつ発症したの!?」


「中学1年、13のときだよ」



……今年で4年目。



「でも、10人に3人は生きてるんだから大丈夫。その3人はきっと私。ね??」



私の手をぎゅっと握って優しく、まるで言い聞かせるみたいに話してくれる。



「村のお年寄りとか信仰心の強い人は、私のおかげで…神から好かれた檜山家の少女を捧げているおかげで、村が平和だと思い込んでるんだよ」


「でもっ!!樹ちゃんは…」


「確かに割り切れないこともあるよ??
でも、私の病気がバレれば村が混乱するでしょ??」


「そんな事…」


「あるんだよ。現に先代の生贄様が亡くなったときもすごく混乱した。
私も幼かったから、こんな子供に生贄様が務まるのかって。

その後私は引き取り手がいなくて、村の外の施設に入ることになるんだけど、儀式の日は施設まで村の人が迎えに来て村に戻るんだ…。
それだけ、この村にとって生贄様が大切ってこと。
だからね、この病気は内緒なの。りんも、黙っていてほしい」


「っ!!」


「というか、黙ってるしかないんだよ…。
この事がりんから漏れたってわかれば村から追い出される事になる。
それだけの権限が咲座家にはあるから」


「え……」


「村の事はほぼ咲座家が決めてる。
学校でも黎華に逆らおうとする人はいなかったでしょ??
この間、私の秘密を知った教師は村から追い出されたしね。
それに、黎華の今の母親、咲座家の権力を持とうとして黎華に付け入ろうとしたでしょ??そういう奴が出るくらいの権力者ってことよ。
私はりんをそんな事で失いたくない。私と対等に話してくれる友達を失くしたくない」


「………わかった、黙ってる。
でも、私出来るだけ樹ちゃんの力になりたい…。
今まで支えてもらった分、今度は私が支えてあげたいっ!!」



抱きしめた樹ちゃんの体は細くて、少し震えていて……。

私は一体何ができるんだろうか……。
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