小さな村の大きな話
気がついたら昼過ぎになっていた。
「先生、頭は冷えました??」
「……冷えました。
あの、彼女は…??」
「あぁ、樹ちゃんならもう帰りましたよ」
「色々迷惑掛けてごめん…」
「謝る相手が違いますよ」
「そう、だね」
「…お昼、まだですよね。
一緒に食べましょうか」
「はい…」
食堂に行くと、もう全然人もいなくなっていてメニューも売り切れがちらほら見える。
僕はカレーを、長谷さんはパスタを頼んだ。
「ここ数日、先生の様子がおかしかったから気になってたんです。
りんちゃんの事、何かあったんですか??」
長谷さん、よく見てるんだな…。
りんちゃんのことまで気付いて…。
「…りんちゃん、学校でうまくいってないみたいで…」
「うまくいってない…とは??友人関係が??」
「はい、ノートに落書きされてたりとかトイレで水かけられたりとか…」
「あぁ、いじめですか」
もぐもぐとバスタを口にしながら言い当てる。
「そんな、何事もなかったみたいに…」
「女性同士だと別に何も珍しいことはありませんよ??
むしろ人生一度も経験しない人のほうが珍しいです」
「…え…、長谷さんも??」
「私は家が空手道場なこともあって、怖がられてましたから、そういうねちっこいのはありませんでした。
私の事嫌ってる女子に柔道部の男子5人仕向けられたくらい??」
「なにそれ、怖い…。
……あ、さっきのって…」
「あ、そうだ…思いっきり投げちゃってすみません。
大丈夫でした??」
「大丈夫、まだ全身痛いけど…」
「先生受け身取らなかったんで2,3日続くと思いますが我慢して下さい。
樹ちゃんはそれより辛かったんですから」
「彼女には悪いことをしたと思ってる。
でも、りんちゃんをあんなに苦しめたと思うと歯止めが聞かなくて…」
「…それなんですけど、多分樹ちゃんじゃないと思いますよ」
「え??」
「父親同士が仲良くて、産まれたときから知ってますけどそんな子じゃないです。
なんだかんだで正義感も強いし、サバサバした性格だからノートに落書きなんてネチネチした事は絶対しないでしょうね」
「それは、長谷さんの知ってる檜山さんでしょう??」
「じゃぁ、壱原先生は私以上に樹ちゃんの事知ってるんですか??
あんな見た目をしてるから、不良だと思っていじめとかやりそうだと、思いこんでませんか??」
「違う!!!」
ガタッ
さっき、りんちゃんに何か口止めしてた…。
脅して、怖がらせて支配させようなんて最低だ…。
人のことは言えないけれども…
「ごめん、先に医局戻るね」
「構いませんけど、1ついいですか??」
「……」
「こういう問題は誰のせいでもないです。
大人の、それも男の先生が口を出すのはりんちゃんにとっても良くないです。
先生は帰ってきたりんちゃんの、辛い事を忘れられる場所を作ってあげるのが役目だと思います。
学校のフォローは同じ女性である私がしますから…」
やばい、泣きそう…。
こんなに僕達を見てくれて、心配してくれる人がいる……。
「色々ごめん、ありがとう」