癒し恋~優しく包まれて~
このまま特になにもすることなく帰るのかな。なんだか寂しい。

始まっているようで始まってないのかな。そもそも交際とはどんな感じで始まるものだろう。


「ほら、手に持ってないでちゃんと巻いて」

「あ、いえ。返そうと思っていて……」

「いいから。風邪引くよ」


借りていたマフラーを返そうと持って外に出たのに、また巻かれてしまう。隙間なくぐるぐると巻かれる。


「このマフラー、あったかいですね」

「だろ? 肌触りが気に入って買ったんだ」


お気に入りのマフラーを誉められたのが嬉しいようで屈託なく笑う。それから、私の手を握り駅の方へと歩き出した。

もう少し一緒にいたいけど、今日はやっぱりこのまま帰るみたいだ。駅に着いたらマフラーを返そう。


あれ?

駅に行かないのかな?

駅に向かってはいたけど、駅に入らないでタクシー乗り場へ行く。私は引かれるままついていき、乗せられてしまう。

もちろん入江さんも一緒に乗っている。

運転手に告げた行き先に今日は行かないと思っていた場所だった。
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