【完】もっとちょうだい。







……さむ。



休日の朝、モグの散歩。
この寒さの中、服一枚着ずになんでこんなに元気なんだろう……。



「やっちゃーん」



聞き慣れた声に振り返ると、麻里奈がいた。



中学3年間付き合ってた相手。


可愛らしい見た目とは反してものすごく気分屋。

恐ろしい女。
恐ろしさについてはあまり語らないでおく。トラウマだから。



「モグーっ」


麻里奈がモグを抱っこすると、嬉しそうに尻尾を振る。



「こんな朝早くにどうしたんだよ?」



「パン屋さん行こうかなって。家族の朝ごはん買いに」



セミロングの黒髪がサラリと揺れた。
くりっとした目を細めて、モグを抱きしめてる。



「やっちゃん、彼女とうまくいってるの?」



「まぁ」



この前の、“駅裏デート”思い出した。
……うまくいってると思う。



「そっかぁ。よかったね」



「麻里奈は彼氏できたんだっけ?」



「いないよー、今は短大の入試の勉強で精一杯かなぁ……」



「麻里奈も受験生だったんだな」



「なんか失礼じゃない?」



「はは、じゃあそろそろ行くわ」



モグを降ろしてもらって、散歩再開。



麻里奈とは近所だから偶然会うこともある。



『麻里奈ちゃんと話してもいいよ。束縛とかややこしいこと、したくないな。されたくもないけど』



束縛嫌いの芙祐がそういうから、会えば喋る。


芙祐も元カレの桜木慶太に会えば喋るし、俺もまぁそれでいいかなって
思ってるわけだけど。



普通、気になんない?


芙祐は自由人すぎてたまによくわからない。


散歩も中盤。スマホが震えた。




着信中 土屋芙祐


一瞬、テンション上がる。

一応感情は押し込めて、



「はい?」と電話に出る。



『おはよー、ヤヨちゃん』


まだ起きたばかりのような声。
甘ったるい、甘え声。



「おはよ。どうした?」



『起きたらね、ヤヨに電話したくなったから』



「あ、そ」



なん、て、いうか、
嬉しい。結構。



『ヤヨ冷たーい』



「別に冷たくないだろ」



『ふーん……まぁいいや。じゃあ朝ご飯食べてくるね。ばいびー』



プツリと切れた。


なんっ……ていう自由人。









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