【完】もっとちょうだい。
*
……さむ。
休日の朝、モグの散歩。
この寒さの中、服一枚着ずになんでこんなに元気なんだろう……。
「やっちゃーん」
聞き慣れた声に振り返ると、麻里奈がいた。
中学3年間付き合ってた相手。
可愛らしい見た目とは反してものすごく気分屋。
恐ろしい女。
恐ろしさについてはあまり語らないでおく。トラウマだから。
「モグーっ」
麻里奈がモグを抱っこすると、嬉しそうに尻尾を振る。
「こんな朝早くにどうしたんだよ?」
「パン屋さん行こうかなって。家族の朝ごはん買いに」
セミロングの黒髪がサラリと揺れた。
くりっとした目を細めて、モグを抱きしめてる。
「やっちゃん、彼女とうまくいってるの?」
「まぁ」
この前の、“駅裏デート”思い出した。
……うまくいってると思う。
「そっかぁ。よかったね」
「麻里奈は彼氏できたんだっけ?」
「いないよー、今は短大の入試の勉強で精一杯かなぁ……」
「麻里奈も受験生だったんだな」
「なんか失礼じゃない?」
「はは、じゃあそろそろ行くわ」
モグを降ろしてもらって、散歩再開。
麻里奈とは近所だから偶然会うこともある。
『麻里奈ちゃんと話してもいいよ。束縛とかややこしいこと、したくないな。されたくもないけど』
束縛嫌いの芙祐がそういうから、会えば喋る。
芙祐も元カレの桜木慶太に会えば喋るし、俺もまぁそれでいいかなって
思ってるわけだけど。
普通、気になんない?
芙祐は自由人すぎてたまによくわからない。
散歩も中盤。スマホが震えた。
着信中 土屋芙祐
一瞬、テンション上がる。
一応感情は押し込めて、
「はい?」と電話に出る。
『おはよー、ヤヨちゃん』
まだ起きたばかりのような声。
甘ったるい、甘え声。
「おはよ。どうした?」
『起きたらね、ヤヨに電話したくなったから』
「あ、そ」
なん、て、いうか、
嬉しい。結構。
『ヤヨ冷たーい』
「別に冷たくないだろ」
『ふーん……まぁいいや。じゃあ朝ご飯食べてくるね。ばいびー』
プツリと切れた。
なんっ……ていう自由人。