【完】もっとちょうだい。

彼女の誘惑

今日はね、クリスマスイブ。


ヤヨと、駅で待ち合わせ。



「……おそ」



「ごめん」



あたし、遅刻。

昨日楽しみでうまくねれなかったせい。


謝りながら、ヤヨの冷たくなったほっぺにホッカイロをぺったりくっつけた。




「いらない。行こうぜ」


ホッカイロ戻ってきた。
可哀想に。ポッケにお戻り。



「どこにいこう?」



「とりあえず建物の中行きたい。まじで寒すぎ」


文句言いながらも、
んっ、て。



手を差し出してくれるヤヨ。



「責任持ってあっためるね」



両手でヤヨの手を捕獲した。


そしたら左手だけ繋がれた。
ごめんね右手。待っててね。



「俺、ここらへんの土地勘ないんだけど」



「あたしもない」



「は?」



うん。たしかにここでデートしようって言ったのはあたしだけど。



クリスマスツリーの点灯式が結構大々的だって、調べたら出てきたからであって。



この駅に降りたことないし。




「店とか……あるのか?」



「ちょっと廃れてるよね」



グルグル回ってたらね、
なんか、こう。
怪しい雰囲気のところに来ちゃったよ。



どれを見ても派手で、あんまりセンスのない建物だし。


駐車場の入り口が、のれんだらけだし。



それに、そこら中にあるこの看板ってなんだろう?



「"休憩"って何?休めるところ?」



「……。芙祐、戻ろ」



ヤヨはあたしの手を引っ張って、
Uターン。



「中入れそうだったよ?カラオケあるって書いてあったし」



「はぁ……なんなのお前」



「行かないの?この辺くらいしかお店ないじゃん」



「あれラブホだけど。行きたいの?」



ヤヨの、呆れ顔。

え、ほんとだ。ホテルって書いてある。



「あれが?噂の?や、やだ。行かない」



あたし、全力で首を振ったから。
そんな破廉恥なこと絶対に言わないから。



「わかってるよ。連れてかねえよ」



ヤヨはまっすぐ前を見て、それはそれは遠い目をして言い放ったよね。




< 39 / 268 >

この作品をシェア

pagetop