【完】もっとちょうだい。
ヤヨの家を出て、
後ろを何回も振り返ってるけど
追いかけてくる気配、未だなし。





「芙祐ちゃん」


声の先に振り向くと、
にこりと笑った慶太くんがいた。



そういえば、ヤヨと慶太くんって結構家近いよね。
中学違うけどね。
慶太くん、アメリカに住んでたし、その頃。




「何か不機嫌?喧嘩でもした?」



首をかしげて、あたしのほうに歩み寄る。
慶太くん、今日もいい匂い。
ぬかりない。



喧嘩の流れを説明していると、
慶太くん、くすくす笑ってるんだもん。



「ひどい」


「いや、うん。ふたりらしいなーとおもって」


「らしいの?でね、ヤヨ、追いかけてもこない」



「芙祐ちゃんも本気で帰るとか、ひどいんじゃないの?」



慶太くんのいたずら顔の正論に、
何にもいえなくなる。



「まぁ、でも、俺なら芙祐ちゃんのこと絶対追いかけるけどね」


「だよね?」


「うん」


いつの間にか、隣を歩く慶太くん。
いつもニコニコしていて、
あたしより一つ上の次元で生きてる?ってくらい余裕ありげで、
ヤヨとは違う感じ。



「慶太くんは、」


よかったなぁ……

なんて、
危ない、口からもう一言多く出そうだった。



口を紡いだとき、
突然顔を覗き込まれた。


「追いかけてこない彼氏の代わりに、送っていこうか?」



ごくっと、唾を飲む。

久々にこんな至近距離で慶太くんを見た。



「いや、ううん、送りとかいらない。大丈夫だから」



首をブンブンと横に振ると、
慶太くんはまたクスッとわらった。



「でもいいね、彼氏と喧嘩とか。俺も相手ほしいわ」


「好きな人いないの?」


「いるけど、無理そうだからなぁ」


「いるんだ……。でも慶太くんなら誰でもおとせるでしょ?」



慶太くんの好きな人、
気になる。
元カノとしてはすごく。


「無理無理、だって芙祐ちゃん、弥生くんと別れないでしょ?」




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