空色(全242話)

『何であんたが……』

寒空の下。
白い息を吐く幸成に問いかける。

『帰りの車、頼むの忘れてたんで』

『は?』

どういう事?

もしかして、
いや、もしかしなくとも、行きに車が来たのは幸成のおかげなんだ。

『送ります。 店の車じゃなくて悪いけど』

幸成はクルッと背を向け、少し先に見える、大きな白い車に向かい歩いていく。

あの車、
結構、高いやつだ。

『金持ちなんだ』

手入れが行き届き、艶(ツヤ)のあるボディ。
中には最新のカーナビ。

二十歳そこらの男の子が買える代物ではないだろう。

『金持ちじゃないっすよ。 こんなん親父の金だし』

幸成は助手席の扉を開けるとそう言った。

『愛は無いけど金はあるんすよね。 なんつって』

いやいや、笑うとこじゃないでしょ。

『それより早く乗ってくださいよ』

突っ立っていた私の背中を押す幸成。
顔は笑ってる。

今日は、いつもと感じが違う。
こんなに話しやすい人だっけ?




車が走りだして数分。
車内に流れる音楽が、予想外に穏やかで眠気を誘う。

『寝ないでくださいよ』

一瞬カクンと首が下がった瞬間に幸成が言った。

『俺、運転してる時に隣で寝られるの腹立つんすよ』

確かにそうだけど。

でも幸成は黒服。
私は店の女の子。

だったら寝ようが歌おうが、私の自由じゃないの?

女の子が大変な仕事を終えた後で、いかにリフレッシュして家に帰れるか。

そんな時間を作るのも幸成の仕事だと思うんだけど。

《ピーピーピー》

と突然、車内に機械的な音が鳴る。

『私の携帯だ』

『女なら、着うたとかにしなよ』

余計なお世話だっての。

横から聞こえるケチは聞かぬふりで携帯を開いた。

メールは、美香からだ。


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from:美香
subject:おつかれッ☆
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お仕事お疲れ様でした!
私ゎ今からお風呂だょ

あのね…
幸成くんと付き合うかも


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