空色(全242話)

美香が幸成と付き合う?
まさかそんな事……

だって、奴はここにいる。
隣にいるんだよ。

『どうしました?』

幸成はニッと得意げに笑うと、ハンドルに頬を寄せた。

『美香に何をしたの?』

そんな幸成を強く睨みつける。

こいつが美香に何かしたに違いない。
私にしたように。

『メール、美香ちゃんなんだ』

嘲笑(アザワラ)うような目。
苛々を誘う。

『可愛いっすよね、美香ちゃん。 実は、ああ見えて、セックスにおいて奥手なんすよ?』

幸成はそう言うとニコッと笑った。
セッ……クス?
一体どういう事?

『あ、言葉になんないっすか?』

幸成の声が、姿が。
遠く感じる。

水の中に潜ったような、そんな感覚。

美香と幸成が?
どうして?
どうしてこんな事に?

『目的は何なの? 何がしたいのよ!?』

解らない。
幸成は何を考えてるの?

『何言ってんすか? 俺は、アユが欲しいだけって言ったでしょ?』

幸成はそう答えると、車を道路の端に寄せた。

このパターン。
前に襲われそうになった時と同じだ。

身の危険を感じ、シートベルトをすぐ外せるようボタンに手をかけた。
これならすぐに逃げられる。

『だったら、美香は関係ないじゃないの。 私に直接すれば……』

そう言いかけた時だった。
大きな手が私の首を掴み、窓ガラスへと押し付けたのだ。

『幸、な……』

苦しい。
気管支が狭(セバ)まるのがよくわかる。
空気が足りない。

『可愛いペットには、首輪を着けるでしょう? それと同じだよ』

何て冷たい瞳(メ)をするんだろう。

「死んでいい人間」
そう言った十和も、同じ目をしていた。

『アユにも首輪が必要なんだよね。 絶対外れないような、でっかい首輪がさ』

首輪……?
それが、美香の事?

『ごめんね? 俺、大事なもんは繋がなきゃ気がすまないの』

駄目だ。
息苦しくて、意識が……
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