空色(全242話)

薄れる意識の中、
幸成の、寂しげな顔が見えた。

何であんたがそんな顔するのよ。

泣きたいのは私。
私なんだから……





『目ぇ、覚めました?』

寝ているのか起きているのか。
解らない位、意識が朦朧としてる。

『……誰?』

薄暗がりの中に、誰かいる事だけはわかって、目の前の人物に問い掛ける。

「十和なの?」
そう、言葉を続けようとしたと同時、目の前の人物は口を開いた。

『幸成です。 勝手に鍵を借りて、部屋を開けました』

そうだ、思い出した。
私、幸成に首を締められて意識が……

『女って脆(モロ)いんすね。 驚いた』

脆い?
驚いた?

こいつ正気か?
あんな事、正常な人間がする?

『結構いい部屋っすね。 外はボロなのに』

幸成は室内を見渡すとそう言った。

罪悪感や反省はないのだろうか。
平然と私のベッドに座っている。

『家賃いくらなんすか? 俺のアパートと間取りは同じくらいだけど』

アパート?
幸成も一人暮らしか。

『5万5千。 駅から遠いから安いの』

『ふーん。 うち6万5千で、コンビニ近いから便利っすよ』

……そんな事はどうでもいい。
私が聞きたいのはそんな事じゃない。

美香の事だけだよ。

『美香の事。 本気じゃないんでしょう?』

幸成の胸元辺りに視線をおき、問い掛ける。
情けない事に、さっきの恐怖が脳裏に焼き付いていて、幸成の顔がまともに見れないんだ。

『言ったでしょう? 俺が欲しいのはアユだけだって』

笑っているのかな。
なんだか少し、口調が穏やかだ。

『じゃあ私、何をすればいい?』

ようやく見る事の出来た幸成の表情は、少し寂しそうな笑顔。
そして真っ直ぐな視線。
通る声で言った。

『俺だけを見て、俺だけを考える。 そんなアユが望みだよ』

「だから何もしなくていい」
そう言ってベッドを下り、立ち上がった。
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