空色(全242話)

何もしなくていいと、幸成は言った。
その言葉に対し、絶望感を感じた。

私には何も出来ない。

何も救えない。
何も変えられない。

そんなふうに思ってしまったんだ。


『とりあえず、今日は帰ります』

幸成は上着を羽織ると、机の上の煙草を掴み言った。

『見送りはいいっすよ。 また倒れられても困るんで』

見送りなんかしないっつーの。
誰のせいで倒れたと思ってんだか。


玄関の扉が開き、冷たい風が部屋を通る。

次に扉が閉まった時、密閉された無音の空間が出来上がった。

【俺だけを見て俺だけを考える】

幸成の言う事は、理解不能な事ばかり。
美香を使ったって、私が幸成を好きになるわけじゃない。

でも寂しげな表情が瞼(マブタ)に焼き付いて、離れなかった。

モヤモヤと晴れない心。
晴らすにはどうしたらいいかな……

窓の外に広がる真っ暗な空を見上げ、溜め息を一つ漏らした。
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