空色(全242話)

『じゃあ俺、仕事に戻るんで』

口元の絆創膏が気になるのか、何度も手で触れる。
そんなしぐさが何だか可笑しかった。


『ありがとね。 写真の事』

まさか幸成にお礼を言う日が来るなんて、
思ってもみなかったよ。

でも、守ってもらったのは事実だし、ね。

『俺も、ありがとう。 コレ』

少し照れ臭そうに絆創膏を触る幸成。

お礼なら、美香に言いなってば……




『アユ、サンキュー!』

待機室に戻ると同時、美香がピョンッと飛び付いてきた。

『久しぶりだよねー? あんな藤原』

『オーナー来るからピリピリしてんじゃない?』

『そうかもー。 それに幸成くん人気あるからさ、ひがんでるのかもよ?』

意地悪に笑う美香に、思わず苦笑してしまう。

前例にオーナーの事があるからか、藤原のひがみが似合いすぎてたからだ。

確かにモテそうもないもんね?
オーナーも藤原も。

『ま、どっちにしろ、もう見たくないよねー。 ああゆう状況』

確かに美香の言う通り、何度も見たいと思えない。

だから、これで良かったのかも知れない。
十和がここに来ないなら、藤原に目をつけられる事もない。

嫌なんだよ。
自分のせいで誰かが傷付くのは。

お父さんお母さん。
そして幸成。
……もう十分だ。
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