空色(全242話)
『おはよーございます』
次の日、絆創膏は外され、少しカサブタになりかけた切り傷が見えていた。
口の端に切り傷。
その周りは紫の痣(アザ)。
あー……
食べ物が食べにくいだろうな。
なんて、思ったりする。
『昨日より目立つね、それ』
『まぁ、朝にはこうなるだろうと思ってましたけどね』
苦笑する姿がバックミラーに映る。
その姿に嫌悪感が無いのは、前ほど幸成を嫌ってないからかも知れない。
単純だけど、パネルの写真の事は嬉しかったし。
美香に自分を諦めるように話した事も、嬉しかった。
人は、いとも簡単に気持ちを変える。
離れてさえいれば、十和の事もきっと……
『藤原さん、おはようございまーす!』
『おはようございます。』
私達はお店に入ると同時、カウンターの藤原に挨拶した。
『おはよう。 美香ちゃん、アユちゃん』
すると、昨日の事など無かったかのように笑顔を見せる。
逆に怖いよ、それ。
『藤原、俳優になれば良かったのにね?』
意地悪に笑う美香に思わず苦笑。
藤原が俳優って……
絶対売れないってば!
そんな冗談を交わしながら、休憩室に向かった私達。
ドアノブに手を掛けた時、中で騒ぐ声が聞こえた。
『え~!? それ、マジで!?』
『そうなの。 失礼しちゃうでしょ?』
どうやら奈美が、誰かに話をしているようだった。
ドアを開けるタイミングを見失ったまま、中の話に耳を傾ける。
……そして知ってしまった。
『じゃあ、あのアユの客とは何も無かったって事!?』
自分が十和にぶつけた、あの怒りが、一方的で理不尽なものだったって事を。