空色(全242話)

私の客って……
十和の事?

それって一体……

『どういう事よ!?』

私が思うと同時、美香が部屋へ飛び込んでいった。

『あんた、アユに嘘ついたの!?』

今にも殴り掛かりそうな、物凄い剣幕で迫る美香。

そのおかげか、私の感情は少し落ち着きを取り戻した。

自分の代わりに怒ってくれる人がいる。
それが嬉しかったからかも知れない。

『あんた、十和さんとヤッたんでしょ!? そう言ったじゃん!!』

美香の言葉に、奈美はハァと1つ、深い溜め息をつく。

『あー、ごめんねー。 嘘ついてたんだ、私』

なんて軽い謝罪なんだろう。

【今までで一番気持ちよかったよ】

あれも、そんな軽い気持ちの冗談だったんだろうか。

『ッ馬鹿じゃないの!? あんたのせいでアユは』

『いーよ、美香』

もう、今更どうだっていい。
結局、奈美の嘘は大した問題じゃない。

遅かれ早かれ、十和は去っていくんだろうから。

『もう、どうだっていい』

いくら十和を好きでも、十和は私を抱かない。
好きになってくれても、愛してはくれない。

だったら、どうだっていいんだよ……


『アユ』

いつも自信たっぷりの奈美の相変わらずの声。
何の反省も無いというような、真っ直ぐ届く声。

『私が嘘ついたわけ。 あんたにわかる?』

あまりの強さに、返す言葉さえ出なかった。

『つまんなかったからよ、あの男。 アユの話ばっかりで』

私の話?
十和が?

『少しヤキモチ妬いたのかもね。 私には、あんな真剣になってくれる客いないから』

フッと不敵な笑みを見せ、奈美は私の頬をつねってみせる。

痛くない。
でも、痛い。

十和を傷付けてしまった事が痛い。

胸の奥深くが、
……痛い……
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