空色(全242話)

「ご愁傷様」の意味。
突然の高笑い。

全てが理解不能だ。
一体、幸成は何を言ってんの?

『あッ!!』

一瞬の油断。

不覚にも、腕を捩り上げられ、窓ガラスに押し付けられてしまった。

『もう入れたんすか?
 「ここ」に……』

ぞわっと、全身に悪寒が走る。
ジーンズごしだが、私の「あの部分」に、幸成の中指が突き立てられた。

『し、てないし! 十和とはそんな関係じゃない!』

ヤバイ。
このまま、やられるかも知れない。

今日の幸成は、妙に殺気立ってるから……

《~♪ ~♪》

と、突然。
何処からともなく、鳴り響く着うた。

『よく好きになれたよね。 名前くらいしか知りもしない人間を』

鳴り続ける携帯。
幸成は話を進め、電話に出ようとしない。

『電話……出たら?』

なんとか、幸成の気を私から反らせないかと、着信に応じるよう促(ウナガ)す。

すると、多少の効果があったか、胸元の内ポケットから携帯を取り出した。

『本当に、出ていいんすか?』

……え? 嘘。
そんな事って……ッ

『まぁ 俺的には、こっちの様子知ってもらうのも、面白いと思いますけどね?』

ストラップを摘(ツマ)まれた携帯は、なおも音楽を鳴らしながら私の目の前をクルクル回る。

何度もちらつく、サブディスプレイ。
動く物体にあっても読み取れるくらい簡単な「十和」という漢字。

嘘、嘘、嘘だ。
十和からの着信が、この携帯にあるはずがない。

だって、2人は他人なんでしょう?
十和は、幸成の名前すら知らなかったもの。

『騙(ダマ)されてるんすよ』

嘘だ。
幸成の言う事なんて信じない。

『だって、ねぇ? まだ、あの人の秘密知らないんでしょう?』

信じたくないよ。
< 190 / 243 >

この作品をシェア

pagetop