空色(全242話)
十和といる時間は楽しくて、一瞬で過ぎ去ってしまう。
『もう5分もないね……』
50分もあった時間も、残りわずか5分。
十和を見送ったら、すぐに別の人の所に行かなくちゃならない。
楽しい分だけ、後が辛い。
どうしようもない事に、気分が沈む。
『俺、延長しよっかな』
と突然、十和が言う。
『明日も早いから30分だけなんだけど』
……駄目なんだよ十和。
今日は駄目。
『あと20分くらいで、予約の人来るから……』
今日は次が決まってる。
『嫌だけどね?』
ははっと笑ってみせた私の髪を、十和は優しく撫でてくれた。
『あのさ俺、アユに言わなきゃいけない事が……』
『アユ!!』
……と。
十和の言葉を遮るように、部屋に飛び込んでくる黒服。
『ゆ、幸成!?』
よく見れば、それは幸成じゃないか。
『マズイっす。 オーナーが出てきましたよ』
幸成は十和にそう耳打ちすると、上着を私に投げた。
あ、これ。
私の上着だ。
わざわざ休憩室から持ってきてくれたの?
『早いね。 聞いてたよりも、ずっと』
『そっすね。 俺も油断してました』
改めて知った2人の関係。
これは昨日や今日、知り合った人間達の雰囲気じゃないや。
もっと前から親しくしてる。
って、そんな事どうでもいい!
『オーナーが帰ってきたの?』
こっちが重用だよ。
『どういうつもりだか突然ね』
……ああ、どうしよう。
恐れていた事がついに……
『とりあえず鉢合わせは避けたいでしょ、十和さんは。 俺が外まで誘導しますよ』
『あ、私も』
『駄目。 アユがいたら余計に怪しまれますから』
確かにそうなんだけど……
でも、心配なんだよ。
あのオーナーに気付かれないなんて、難しいよ。
『大丈夫だよ、アユ。 無事に脱出したら、すぐにメールするから』
「ね?」と、笑う十和に、とりあえずの笑顔を返す。
そうだよね。
信じて、願うしかない……