空色(全242話)
時間が過ぎるのが遅い。
幸成は上手くやってくれただろうか。
十和は無事だろうか。
『君、新人?』
気になって、仕事に集中できないのよ。
『こんな下手くそに当たった事がないよ。 金返してほしいぐらいだ』
……失敗した。
十和の事ばかり考えてたから。
『すみません。 もっともっと、練習しますから』
『もういいよ。 もうここには二度と来ないから』
駄目だ。
こんなオーナーのいる時に苦情なんて出されたら、きっと叱られる。
『ったく。 こんなら家に帰って嫁に頼む方がよかったな』
でも、
こいつの機嫌をとる術が見つからない。
どうしよう。
どうしたら……
『失礼します』
と突然、部屋に入ってきたのは、幸成?
一体、何をしに……
『お客様、うちの者が大変失礼をいたしました』
え?
何言ってんの?
『もしご希望でしたら、お部屋を変える事もできますが。 隣で当店一番人気の娘(コ)が暇を持て余してるようで』
そんなサービスも制度もうちにはない。
幸成、どうするつもりなの?
『もちろん、代金は私からのサービスといたします』
深々と頭を下げる幸成に、男は機嫌を良くしたようで、含み笑いをしながら部屋を出ていった。
『……ごめん』
もうこれしか言いようがなかった。
私のせいで頭を下げた幸成に、申し訳なくて……
『隣、美香ちゃんだから。 後でお礼しといてくださいね』
『うん……』
当店一番人気なんて言うから、奈美かと思ったけど、やっぱり美香だったんだ。
本当に、ごめん……