空色(全242話)
『それと、オーナーから「空いてる者は全員集合」だそうです』
……ついに始まるか。
オーナーが得意の演説。
『どんな事話すのか、楽しみっすね』
あんたは初めてオーナーの話を聞くからね。
ろくでもない、最低な話だよ。
『さて、行きますか』
キ……と音をたて扉が開く。
差し込んだ光が眩しくて、目が眩(クラ)んだ。
『十和は?』
部屋を出ていく幸成の背中に問い掛ける。
すると、フッと優しい笑顔が振り返った。
『十和さんなら無事ですよ。 俺が誘導したんだから、当たり前でしょう?』
「当たり前」って、すごい自信。
でも、
『よかった、無事で』
情けない事に、それが気になって仕事に集中出来なかったから。
だから、この店にいる以上、好きな人は作りたくなかったのに……
これじゃ、プロ失格だ。
『さて、これで揃ったか』
客もいないホールに集められた私達は、オーナーを上座に整列させられる。
美香や、他に指名を受けている子はいないみたい。
幸成は……黒服だからか。
部屋の隅(スミ)から私達を監視してる。
『お前達、俺がいない間に悪さしてねーだろうな』
オーナーの低い声がホール全体に響く。
いくらホールには客がいないからって、まだ営業時間内。
少し声の音量を落とした方がいいと思うけど……
『くどいようだが、今一度言っておく。 恋愛なんてくだらない事で人生を棒に振るな』
オーナーには、そんな常識は通用しないみたい。
今までは、この話を聞いても何も思わなかった。
でも、幸成からオーナーの過去を聞いてしまってから、妙に反抗したくなる。
自分は、あんな結末にになるほど、1人を愛したくせに……と。