空色(全242話)

『それと、オーナーから「空いてる者は全員集合」だそうです』

……ついに始まるか。
オーナーが得意の演説。

『どんな事話すのか、楽しみっすね』

あんたは初めてオーナーの話を聞くからね。
ろくでもない、最低な話だよ。

『さて、行きますか』

キ……と音をたて扉が開く。
差し込んだ光が眩しくて、目が眩(クラ)んだ。

『十和は?』

部屋を出ていく幸成の背中に問い掛ける。
すると、フッと優しい笑顔が振り返った。

『十和さんなら無事ですよ。 俺が誘導したんだから、当たり前でしょう?』

「当たり前」って、すごい自信。
でも、

『よかった、無事で』

情けない事に、それが気になって仕事に集中出来なかったから。

だから、この店にいる以上、好きな人は作りたくなかったのに……

これじゃ、プロ失格だ。







『さて、これで揃ったか』

客もいないホールに集められた私達は、オーナーを上座に整列させられる。

美香や、他に指名を受けている子はいないみたい。

幸成は……黒服だからか。
部屋の隅(スミ)から私達を監視してる。

『お前達、俺がいない間に悪さしてねーだろうな』

オーナーの低い声がホール全体に響く。

いくらホールには客がいないからって、まだ営業時間内。
少し声の音量を落とした方がいいと思うけど……

『くどいようだが、今一度言っておく。 恋愛なんてくだらない事で人生を棒に振るな』

オーナーには、そんな常識は通用しないみたい。

今までは、この話を聞いても何も思わなかった。
でも、幸成からオーナーの過去を聞いてしまってから、妙に反抗したくなる。

自分は、あんな結末にになるほど、1人を愛したくせに……と。
< 198 / 243 >

この作品をシェア

pagetop