空色(全242話)
【好きな女を無理矢理に】
【そんで妊娠】
大分前に聞いた噂話が、また蘇(ヨミガエ)る。
ずっと、忘れてたのに……
【死んでるんすよ2人共】
オーナーを疑わないわけがない。
だってあれ以来、真吾くんを見ないもの。
きっと、彼はもう……
『あーもー、最悪!』
帰りの車内。
美香が今日の愚痴を零していた。
『あの客、調子のって本番まで要求してきたんだよ!』
どうやら私が怒らせた客。
とんだくせ者だったらしい。
『ははっ。 オーナーがいなかったらボッコボコにしたかったですね』
冗談か本気か……
笑って言う幸成。
『それって、ヤキモチ?』
『さぁ? どうでしょうね』
ってか、このままくっつきそうな感じ?
私って、もしかして邪魔だったりする?
『なんてね。 まだ新しい恋愛には進めないっすよ』
と、急に寂しそうに笑う。
それがバックミラーごしに見えて、目を奪われた。
『やれる所までやって。 それで駄目だったら、美香ちゃんに頼りますよ』
……なによ、急に。
そんな告白みたいなの。
美香も私も、返答に困るじゃないのよ。
『まぁ、オーナーが出てきた今は、何もできませんけどね』
あまりにも、いつも通りで忘れていた。
オーナーが来た事を。
これから、またオーナーの監視が始まる事を。
『ってか、俺から提案なんすけどー』
と、突然。
幸成は車を路肩に寄せて停止させる。
いつも幸成が何かしてくる時、こうして車を止めた。
でも今日は、美香がいるから。
そんな無茶はしないはず……
『提案って?』
一応、念のためにバッグを胸に抱き、問い掛ける。
『逆にオーナーを追い出してやりませんか?』
幸成から返った答えは、予想を遥かに越えたものだった。