空色(全242話)
『……は? 何言ってんの?』
オーナーを追い出すだなんて……
『出来ない事じゃないと思うんすよ。 だって、オーナー達のしてる事は違法でしょ』
確かに、正しい事より間違った事の方が多いかも知れない。
暴力や、性的な事もあった。
でもそれじゃ……
『警察に頼るって事?』
と、私より先に美香が言う。
『それが、手っ取り早いと思いますけどね』
『駄目だよ。 私達は、それを避けてきたの』
目を伏せ、震えた声。
美香も、私と同じだったんだね……
「公(オオヤケ)にしたくない」
私も、それを思ってきた。
『私達、こんな仕事してるけど。 性に対して何とも思ってないわけじゃないよ』
真っ直ぐ前を見据える美香に、車内はシンと静まりかえった。
『それに、私達が被害届けを出しても、誰が信じてくれるの?』
いつもニコニコ、軽い口調で明るい美香が初めて見せた顔。
それに驚いたのは私だけじゃないはず。
『幸成くんも、下着姿で歩いてる女の子がレイプされたって、同情しないでしょう?』
幸成もきっと……
『自業自得って、そう思うでしょう?』
ねぇ?
驚いたでしょう?
私も、美香がこんなふうに思ってるなんて、知らなかったもの。
「下着姿の女の子」
それは私達そのもの。
何をされたって文句言える立場じゃない。
だから私達は、何も行動できずにいたんだ。
『思うよ。 でも、だからって黙って従ってんですか!?』
と突然。
運転席から後部座席へと身を乗り出し、幸成が騒ぐ。
飛び付かれるかと思って、悲鳴を上げそうになってしまった。
『あんたら、最初は間違いなく被害者なんだよ!?』
この人、こんな喋り方もするのね。
いつも敬語だから……
『今のあんたら、完全に同意の上だよ! 諦めも同意も、端(ハタ)から見たら同じなんだよ!!』