空色(全242話)
幸成の車を降り、疲れてむくんだ足を引きずるように部屋へ向かった。
途中で休みたかったけど、アパートの住民と顔を合わしたくなくて、やめた。
部屋に戻ったら、酎ハイをグイッと飲みたいな。
でも、先にシャワーを浴びて……あ。
『十和!?』
と、突然の訪問者に驚き、声をあげる。
しかしすぐに大きな手で口を塞がれた。
そして華奢で長い人差し指を立て、
『もう夜中だから、静かにね?』
と、笑った。
『どうしたの? 突然』
とりあえず部屋に入れて、鍵をかける。
少し散らかった室内を見回し、片付けておかなかった事を後悔した。
『何となく心配だったから。 大丈夫だった?』
……何言ってんの。
それは、私の台詞だよ。
十和が心配で、仕事もまともに出来なかったんだから。
『ってか、お土産。 ビールやら酎ハイやら……あ、お菓子もあるよ』
そうそう。
酎ハイ飲みたかったんだよね!
って、話それてるよ……
『はい。 アユの好きな酎ハイ!』
ポンと手渡された酎ハイが、前に私が「美味しい」と言った物だったから、何だか嬉しくなった。
この人は、そんな何気ない会話まで覚えててくれたんだなって。
『ありがとう、十和』
ヤバイ、ヤバイ。
顔が緩んじゃうよ……