空色(全242話)
『ところで、ちょっと真面目な話があるんだ』
と、切り出した十和。
でも「真面目な話」なんて言ってて、もう4本目のビール。
相変わらず、お茶みたいな勢いで飲むなぁ……って、感心する。
『アユ、聞いてる?』
『あ、うん。 何の話?』
『アユのお店の事なんだけど』
お店の事?
それって一体……
『今後、お店に行くの止(ヤ)めようと思って』
『……え?』
『今までは、録画をチェックしてたの幸成くんなんだ。 これからもそうだけど…… 少しでも怪しまれたらオーナーがチェックするかも知れない』
……つまり、
私と十和の関係がバレるのも時間の問題って事か。
確かに、シャワールームに入りっぱなしも怪しい。
オーナーが気付けば、そこにも監視カメラを仕掛けるかも。
でも、お店で会う事が無くなったら、十和とあまり会えなくなっちゃう……
『それで、これをアユに』
と、十和が差し出した小さな紙袋。
不思議に思いながら中身を出すと……
『カード?』
硬くて丈夫そうなカード。
これは……?
『合い鍵だよ。 俺の部屋の』
『……いいの?』
『好きな時に、どうぞ? どうせ一人暮らしで暇だし』
ヤバイ。
嬉しすぎて、涙が出そう。
私が不安になる事まで考えてくれたの?
十和も、私と会いたいって思ってくれてたの?
ううん、どっちでもいい。
すごく、嬉しい……
『何だよ~。 泣くほど困るって?』
苦笑しながらも、十和は私を抱きしめて背中を摩(サス)る。
駄目だ、私。
十和の前じゃ、子供みたい。
『毎日来てよ? アユの顔、毎日見たいから』
私もだよ。
私も、十和と毎日会いたい……