空色(全242話)

『ハァッ……』

責め立てるような意地悪なキスに、だらし無く息が漏れる。

『可愛ー、アユ……』

よく、恥ずかしげもなく言えるよ。
逆に、こっちが恥ずかしいっての。

って……!?

『と、十和!!』

何でさりげなく、押し倒すみたいになってんの!?

手首、がっちり床に押し付けられてるし!

『バレたか』

『わ、わかるに決まってるでしょ!?』

大胆にも馬乗りになった十和の下で、必死にもがいてみるけど、びくともしない。

こういう時、十和もちゃんと男なんだって再認識させられる。

『普通の女の子になるまで待つって……ッ』

そう言ったのに、唇が、舌が……
首筋を這っていくから、力が出せない。

『俺は気にしないって言ったけど……?』

『でもッ!!』

私が気にするよ。
だって絶対、十和にしか触りたくなくなる。
仕事が出来なくなるもの。

『むしろ、アユに俺を覚えさせて、他の奴を拒絶するような体にしてやりたいね』

独占欲。
支配欲。

十和の強さに流される。

このまま、抱かれるのも悪くない。
そう思ってしまいそう……

『なーんてね。 俺の負けだよ』

『え……?』

『「抱きたい」なんて「好きだ」なんて、一生思う事はないと思ってた。 風俗嬢なんて』

脱ぎ捨てられたシャツが、静かに床に着地する。

初めて見る十和の裸体に、タトゥーの全体図を知る。

左の二の腕から始まり、肩甲骨(ケンコウコツ)で終わる、空想の世界の植物。

自分の過去を悔やみ。
私のような女に堕ちないと。

固い決意の表れかと、思った。

『……いいよ』

それを、崩したい。
壊したいと思う私は、

『十和の好きにして』

※悪婦(アクフ)だろうか……

(※性質の悪い女性。意地悪な女)
< 205 / 243 >

この作品をシェア

pagetop