空色(全242話)
『ハァッ……』
責め立てるような意地悪なキスに、だらし無く息が漏れる。
『可愛ー、アユ……』
よく、恥ずかしげもなく言えるよ。
逆に、こっちが恥ずかしいっての。
って……!?
『と、十和!!』
何でさりげなく、押し倒すみたいになってんの!?
手首、がっちり床に押し付けられてるし!
『バレたか』
『わ、わかるに決まってるでしょ!?』
大胆にも馬乗りになった十和の下で、必死にもがいてみるけど、びくともしない。
こういう時、十和もちゃんと男なんだって再認識させられる。
『普通の女の子になるまで待つって……ッ』
そう言ったのに、唇が、舌が……
首筋を這っていくから、力が出せない。
『俺は気にしないって言ったけど……?』
『でもッ!!』
私が気にするよ。
だって絶対、十和にしか触りたくなくなる。
仕事が出来なくなるもの。
『むしろ、アユに俺を覚えさせて、他の奴を拒絶するような体にしてやりたいね』
独占欲。
支配欲。
十和の強さに流される。
このまま、抱かれるのも悪くない。
そう思ってしまいそう……
『なーんてね。 俺の負けだよ』
『え……?』
『「抱きたい」なんて「好きだ」なんて、一生思う事はないと思ってた。 風俗嬢なんて』
脱ぎ捨てられたシャツが、静かに床に着地する。
初めて見る十和の裸体に、タトゥーの全体図を知る。
左の二の腕から始まり、肩甲骨(ケンコウコツ)で終わる、空想の世界の植物。
自分の過去を悔やみ。
私のような女に堕ちないと。
固い決意の表れかと、思った。
『……いいよ』
それを、崩したい。
壊したいと思う私は、
『十和の好きにして』
※悪婦(アクフ)だろうか……
(※性質の悪い女性。意地悪な女)