空色(全242話)
オーナーが入院して十和が現れた。
それから少しずつ、状況が変わって、こんな私でも幸せだと思う事が出来た。
「十和のおかげ」
なんて思ってた私は、とんだ甘ったれだ。
違う。
十和のおかげなんかじゃなく、ただ「オーナーがいなかったから」だ。
オーナーが帰ってくれば、ほら。
店の中は無茶苦茶。
少し大人しくしてた藤原も、オーナーが来たら、態度を変えた。
美香とも、楽しい話がしづらくなった。
十和と、中々会えなくなった。
これが自然だけど、今まで泳がされてた分だけ、余計に苦痛に感じる。
本当に死んでしまえばよかったのに……
なんて思った。
《ぴんぽーん》
ありきたりなインターホンの音が、静かな夜の住宅街に響く。
いくら十和から合い鍵を貰ったからといって、インターホンを鳴らさずに入るのも、失礼かと思って……
とりあえず鳴らしたのだけど、十和は出なかった。
出掛けてるのかな?
でも、時刻は0時を過ぎた頃。
出掛けたとしてもコンビニくらいだろう。
『寒……』
やっぱり夜は、ちっとも暖かくならないな。
いつまでも真冬みたいだ。
ちょっと、入らせてもらおうか。
何となく悪いような気がして、静かに鍵をあける。
室内はヒーターがつけっぱなしで、暖かかった。
やっぱり、コンビニか。
部屋にまで入るのは図々しい気がして、リビングの入り口付近に腰を下ろした。